モーツァルト,ヴォルフガング・アマデウス　〔オーストリア〕

（1756.01.27 ? 1791.12.05）　35歳

《 ロドロン協奏曲 》

【 ３台のピアノのための協奏曲 第7番 ヘ長調 K.242 】

モーツァルト２１歳の１７７７年９月に、母と二人で就職活動のため
ザルツブルク経ったが、その途中父レオポルトの生地アウクスブルクで
演奏会を開き、そのときに「ピアノ協奏曲 第7番」も演奏している。

この曲は、前年の１７７６年に作曲されたが、ザルツブルクの貴族
エルンスト・フォン・ロドロン伯爵の後妻マリア・アントニア夫人と二人の娘
アロイジアとヨゼファのために書かれ、「ロドロン協奏曲」と呼ばれる。

華やかな社交の場にふさわしい雰囲気の作品で、献呈した３人の
技量に合わせて平易に作られているが、特にヨゼファのための
第３ピアノの負担は軽くしている。

　　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro　　　 　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Adagio　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Tempo di Menuetto　

《 フランス的 》

【 ２台のピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365 】

モーツァルトは、２２歳のときに滞在先のパリで最愛の母を客死させてしまった。

その翌年、約一年半ぶりにザルツブルクの父のもとに帰り、
フランス的な作品もふくめ、数曲の作品を書いた。

「ピアノ協奏曲K365」はその中の一曲で、ただ一つの、
２台のピアノのために書かれた協奏曲である。

この種の作品はあまりなくて、バッハが作曲した３曲とともに、
今日でもよく演奏される。

　　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro
　　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Andante
　　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Allegro

《 バイオリン協奏曲の年 》

【 バイオリン協奏曲 第1番 変ロ長調 K.207 】

モーツァルトが作曲した協奏曲は５０曲をこえるが、ほとんどあらゆる楽器
（ピアノ・バイオリン・フルート・クラリネット・ホルン・ファゴット・
フルートとハープ）の作品を書いている。

１７７５年、１９歳のときの一年間に、第１番から第５番までの
バイオリン協奏曲５曲を、故郷のザルツブルグで集中的に作曲したことから、
一括して「ザルツブルグ協奏曲」という名称で呼ばれ「ヴァイオリン協奏曲の年」
として、作曲活動のうえで見のがすことができない年といわれている。

「バイオリン協奏曲 第1番」は、モーツァルトが楽譜に書き入れた署名によって、
１７７５年４月１４日、ザルツブルクで作曲されたことがあきらかにされている。

モーツァルトは幼児のころから、バイオリンを巧みに弾いていたが、
バイオリン協奏曲は５曲の他には、３曲の作品があるだけである。

５曲のヴァイオリン協奏曲は、音楽的に重要な国々である、イタリア、
フランス、ドイツ、オーストリアなどの、多様な様式的な特徴を
それぞれの曲がもっているが、第１番はオーストリア的な楽曲である。

３楽章からなり、第１楽章は旋律の豊かで優美繊細な音楽の流れは、
単純明解ながら、むしろラプソディックな性格のものである。

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro moderato
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Adagio　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Presto　　　　　

【 バイオリン協奏曲 第5番 イ長調 K.219 】

「第５番イ長調」は、「第４番ニ長調」を作曲してから、約２ヶ月後の
暮も押し迫った1775年１２月２０日に完成された。

一連の作品の最後のものにふさわしく、堂々とした規模をもった作品である。
作風は、全体の感じがフランスの影響と共に、ドイツ的な色彩が濃く、
大らかな音楽の流れが全曲を貫き、優美でありながら、
あふれるばかりの若さと力量にみち、青年モーツァルトの手になる音楽の
ひとつの典型を生み出している。

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro perto　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Adagio　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Tempo di menuetto-Allegro

《 ファゴットの名曲 》

【 ファゴット協奏曲 変ロ長調 K.191 】

「ファゴット協奏曲 変ロ長調」は、モーツァルトが３度目の
イタリア旅行を終えてザルツブルクに定着した１８歳のときの作品で、
ミュンヘンのデュルニッツ男爵のために書かれたと推定される。

ファゴットのために書いた協奏曲は少なくとも４曲あるといわれているが、
ミュンヘンで知り合ったデュルニッツ男爵に捧げた２曲は行方がしれず、
もう１曲は完全な作品ではなくて未完成とされている。

当時のファゴットは、現在のものと同じ性能をもっていて、
ファゴットの得意とする広い音域間の跳躍や息の長いカンタービレ、
幅広い透明な音色などを巧みに利用していて、この楽器の
数少ない名曲の一つとして、管弦楽の協奏曲としては
「フルート協奏曲ニ長調」に次いでしばしば演奏される。

第２楽章の第１主題は、グルックの代表作「オルフェウス」の中の
有名なアリア「ああ、われエウリディーチェを失いぬ」の
清楚な主旋律と類似している。

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Andante ma Adagio　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Rondo Tempo di Menuetto

《 事の真相 》

【 フルート協奏曲 ニ長調 K.314 】

モーツァルトは「ファゴット協奏曲変ロ長調」を書いた３年後の
１７７７年１２月に、初めて会ったオランダ人の大富豪ドゥジャンから依頼されて、
５つの協奏曲を作曲した。

　　　　　　　　　　　　　フルート協奏曲 第1番 ト長調 K.313　　
　　　　　　　　　　　　　フルート協奏曲 第2番 ニ長調 K.314　　
　　　　　　　　　　　　　フルート四重奏曲 第1番 ニ長調 K.285　
　　　　　　　　　　　　　フルート四重奏曲 第2番 ト長調 K.285a
　　　　　　　　　　　　　フルート四重奏曲 第3番 ハ長調 K.285b

その中の一曲が１７７８年にマンハイムで作曲した
「フルート協奏曲ニ長調」だが、父親に宛てた手紙で、約束の作曲料の
全額を受け取ることができなかったことの不満を書いている。

しかし、この疑念は１４３年後の１９２０年、ザルツブルクの
モーツアルト記念館の館長であるパウムガルトナーにより、
モーツァルトの息子の遺品の中にあった「オーボエ協奏曲ハ長調」の
草稿が発見され、事実が分かった。

「フルート協奏曲ニ長調」は、モーツァルトの作品のみならず、
あらゆる管弦楽のために書かれた作品のうちで、
最も著名な曲なのだが、「オーボエ協奏曲ハ長調」を原曲として
編曲されたものであって、２曲は前後して書かれていたことが判明した。

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro aperto　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Andante non troppo
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Allegretto　　　　　

《 フェルレンディス協奏曲 》

【 オーボエ協奏曲 ハ長調 K.314 】

「オーボエ協奏曲 ハ長調」は、ザルツブルク宮廷楽団のオーボエ奏者
ジュゼッペ・フェルレンディス（1755-1802）のために、
１７７７年ザルツブルグで作曲された。

「オーボエ協奏曲ハ長調」は、父親に宛てた手紙に、
『名前は忘れてしまいましたが、奏法もなかなかいいし、きれいな正確な
音をだすオーボエ奏者もいました。ぼくは彼への贈物として
オーボエ協奏曲を一つ作りました。・・・・』

また別の手紙に、このオーボエ奏者はラムで彼の十八番として演奏され、
大変な人気だったとも書いている。

ラム（1741-1808）とはマンハイムで知り合い、その後親しくなって、
オーボエのための曲を贈っている。

後に「オーボエ協奏曲ハ長調」を原曲として編曲されたものが、
「フルート協奏曲ニ長調」だと判明することになる。

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro aperto　 　
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Andante non troppo
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Allegretto　　　 　

《 最晩年の作品 》

【 クラリネット協奏曲イ長調 K.622 】

モーツァルトの最高傑作のひとつにあげられる室内楽曲の
「クラリネット五重奏曲」は、死の２年前の作品だが、
この「クラリネット協奏曲」は死の２ヶ月前に作曲している。

ウィーンで、３歳年長のアントン・シュタットラーというクラリネット奏者と
親しくなったモーツァルトは、彼からクラリネットという楽器の
性能や奏法を詳しく教わった上、経済的援助までうけることになり、
その返礼にこの２曲がシュタットラーに献呈された。

２曲とも、典雅な柔らかい音色をもったA管を使ったイ長調だが、
モーツァルトが好んだクラリネットの音色は、B管ではなくてA管で、
シュタットラーの好みでもあったようだ。
死期もせまったなかで作られた「クラリネット協奏曲」の第２、第３楽章は、
淋しさを漂わせてい、モーツァルトの「白鳥の歌」ともいえる曲である。

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Adagio　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Rondo: Allegro

《 自由思想 》

【 フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299 】

「ド・ギーヌ公爵は比類のないくらいのフルートの名人で、
ぼくの作曲の弟子になっているその娘さんは、これまた素晴らしく
ハープを弾きます・・・」

１７７８年に訪問中のパリから、父に宛てて書かれた２２歳の
モーツァルトの手紙である。

この「フルートとハープのための協奏曲」は、ド・ギーヌ公爵の令嬢の
結婚式を飾るために依頼され作曲されたもので、公爵のフルート、
令嬢のハープで私的に初演されたらしいが、定かではない。
３つの楽章からなり、全体に大変優雅で気品があり、
しかも華やかな美しさを漂わせている。

１８世紀末までの作曲家たちは、王侯や貴族や大司教といった、
時の支配者たちの手厚い庇護（といえばきこえはいいが、
実際は一介の住み込み音楽家）のもと演奏・作曲活動を行っていた。

しかし、モーツァルトはそうした束縛を自ら断ち切って、ひとりの
自由な人間として、作曲し演奏するという生き方を選んだのだった。

自らの手で生計をはからねばならなかったモーツァルトにとって、
貧しさに喘いだ晩年の悲惨さは、時代を先取りした人間の、
いわば宿命ともいえるのかもしれない。

３５年という短い生涯の中で書き残された６００曲を越す作品は、
かなりのものが裕福な貴族や市民の依頼により、いいかえれば
商品として、作曲された。
いわば金を得るためにペンを走らせた作品ではあったが、時間と空間を
超えて今もなお、世界中の多くの人々に愛されているのだ。

ハープは、人類のもつ最も古い楽器のひとつだが、現在使われている
ダブル・アクション・ハープは、エラールが１８０１年に完成したものである。

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Andantino　　
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Rondo: Allegro

　《 シンファニア・コンチェルト 》

【 ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調　K.364 】

モーツァルトは、２２歳のときに滞在先のパリで最愛の母を失ってしまった。

彼は２曲の変ホ長調の協奏交響曲を書いたが、その１曲が K364で、
母の死の翌年の１７７９年の夏か秋にザルツブルクで作曲し、
時を同じくして初演が行なわれたようだ。

ヴァイオリンの輝きにみちた音色と、ヴィオラのややくすんだ色調の対比が、
音楽的に組み立てられ魅力的な音楽を紡ぎ出している。
変ホ長調の第１・第３楽章とは違って、ハ短調の第２楽章は、
ヴァイオリンとヴィオラの寂し気な会話を聴いているようだ。

協奏交響曲（シンファニア・コンチェルト）は、協奏曲とは違って、
複数の独奏楽器がオーケストラと協調的に響きを作る性格をもっている。

協奏交響曲＝シンファニア・コンチェルト
（弦楽器群を独奏部にもつ曲）

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro maestoso
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Andante　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Presto　　　　　

クライバー,エーリヒ　〔墺〕
（1890.08.05?1956.01.27）　66歳

二十世紀を代表する指揮者の一人のエーリヒ・クライバーは、
ウィーンで生まれた。

プラハ大学で歴史と哲学を学んだ後、プラハ音楽院で指揮を勉強し、
歌劇場の指揮者として活躍した。

３３歳のときにベルリン国立歌劇場の音楽監督になり、オペラだけでなく、
新しい作品も取り上げて指揮をした。

しかし、彼はユダヤ人ではなかったが、妻がユダヤ系だったため、
ナチスの台頭によりアルゼンチンに移住した。

移住後は市民権を取得して、南米で最も重要な指揮者となり、
ヨーロッパでも活動をしたが、尊敬するモーツァルトの
生誕２００年の日の１９５６年１月２７日にチューリヒで急逝した。

指揮者のカルロス・クライバーは息子である。




《ウィーン》

【 セレナード 第10番 変ロ長調 K.361 】

モーツァルトは１３曲のセレナードを残している。
このセレナード１０番は「１３管楽器のセレナード」で、楽器の編成
（オーボエ２・クラリネット２・ファゴット２・コントラファゴット１・ホルン４・
パセットホルン２）や楽章の数（第１楽章?第７楽章）などから、
「大きな組曲」とも呼ばれている。
１７８１年にミュンヘンで着手され、ウィーンで完成されたもののようだ。

セレナードは、愛情や尊敬を捧げようとする人たちの窓辺で
演奏するという古くからの習慣があった。
モーツアルトも貴族や富豪から作品を依頼され、作曲しているが、
絶対君主制度の崩壊とともにこの種のセレナードは、姿を消した。

室内楽と違い、はじめから管楽合奏のために書かれた作品はそれほど
多くないし、まして優れた音楽となると、きわめてわずかである。
この曲は管楽器特有の澄明な音色と、セレナードのもつ
屈託のない楽想によってできている。




《 姉へのプレゼント 》

【 ディヴェルティメント 第11番 ニ長調 K.251 】

モーツァルトは、「ディヴェルティメント」を３０曲近く作曲しているが、
今日演奏される曲は数少ない。
「セレナード」「カッサシオン」とともに、当時主として貴族や富豪のための
娯楽音楽で、特に「ディヴェルティメント」は室内で、食事の時に
演奏されるものが多かった。
編成も小さく、楽想も屈託がないものが要求された。

「ディヴェルティメント」は、十八世紀中期にあらわれた大体６楽章からなる
一種の器楽組曲で、十八世紀後半に栄えたが、その後室内楽に吸収された。

モーツァルトは、「ディヴェルティメント」を３０曲近く作曲しているが、
今日演奏される曲はそれ程多くはない。

「セレナード」「カッサシオン」とともに、当時主として貴族や富豪のための
娯楽音楽で、特に「ディヴェルティメント」は室内で、食事の時に
演奏されるものが多かった。
編成も小さく、楽想も屈託がないものが要求された。

十八世紀中期にあらわれた大体６楽章からなる一種の器楽組曲で、
十八世紀後半に栄えたが、その後室内楽に吸収された。

　　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro　ソナタ形式
　　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　緩やかな変奏曲　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Menuetto　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第４楽章　緩徐楽章　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第５楽章　Menuetto　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　第６楽章　軽快なRondo　　　 　

このうち、２楽章と第３楽章、緩徐楽章と５楽章は、入れ替えられることもある。



モーツアルト,マリア・アンナ・ヴォルフガング・イグナーツィア　〔墺〕
（1751.07.30?1829.10.29）　78歳

「ディヴェルティメント 第11番 ニ長調」は、１７７６年に姉の
ナンネル（マリア・アンナ）の２５歳の誕生日を祝うために書かれた。

５歳年上の姉は、４番目の３女として、ザルツブルクで生まれ、
通称マリアンネ、または、ナンネルと呼ばれていた。

８歳で父から音楽の手ほどきを受け、すぐれたピアニストとして育っていった。
しばしば、弟のモーツアルトと公開の席で演奏し、称賛されていた。

１７歳のとき、ウィーンに演奏旅行した後は、ほとんど家庭に残って、
音楽教師をしながら一家の生活を支えた。
母の死後は孤独な父の忠実な助力者として、慈悲深い代理人をつとめた。

３３歳で結婚したが、１７年後に夫は亡くなり、再び教育活動をはじめた。
６９歳のときに失明するまで続けられ、その９年後の１０月２９日に、
生地のザルツブルクで、７８年の生涯を閉じた。




《 モーツァルトのメルエット 》

【 ディヴェルティメント第17番ニ長調 K.334 】

１７７９年の夏にザルツブルクでに書かれたこの曲は、
モーツァルト自身によって「ロビニッヒの音楽」と呼ばれている。
ロビニッヒ家は、ザルツブルクの富豪で、主人のゲオルクは鉱山を
経営していたが、モーツァルトの幼時に亡くなり、その後も
モーツアルト一家は、その未亡人家族と親しく交わっていた。

流麗な楽想が随所にみられる第17番ニ長調は、第３楽章に
有名な「メヌエット」を持つことで知られ、「モーツァルトのメルエット」と
呼ばれ、 単独で演奏されることが多い。

　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro　ソナタ形式　　
　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　変奏曲　Andante　　　
　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Menuetto　複合三部形式
　　　　　　　　　　　　　　第４楽章　Adagio　ソナタ形式　　
　　　　　　　　　　　　　　第５楽章　Menuetto　ロンド形式　
　　　　　　　　　　　　　　第６楽章　Rondo　Allegro　　　　

《 音楽の冗談 》

【 ディヴェルティメント ヘ長調 K.522】

父親のレオポルドが世を去った年に作られた「ヘ長調 K.522」は
モーツァルト自ら「音楽の冗談」と名付けていて、４楽章のそれぞれに
音楽的な誤りが巧みに用いられた、諧謔的な作品である。

　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Menuetto maestoso
　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Adagio cantabile　
　　　　　　　　　　　　　　第４楽章　Presto　　　　　　

《 音楽と食事 》

【 ディヴェルティメント 変ホ長調 K.563 】

モーツァルトが作曲した「ディヴェルティメント」の最後の作品が
「変ホ長調 K.563」だが、この曲は弦楽３重奏のために書かれた。

しかし、構造は６楽章からなり、楽想も通例の室内楽と比べると
はるかにのびのびとしている。

フリーメイスンに属していた、ウィーンの富豪プフベルクのために、
１７８８年９月２７日にウィーンで作曲された。

　　　　　　　　　　　　　　第１楽章　Allegro　ソナタ形式　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　第２楽章　Adagio　変形ソナタ形式　　　
　　　　　　　　　　　　　　第３楽章　Menuetto:Allegretto　三部形式
　　　　　　　　　　　　　　第４楽章　Andante　主題と４変奏　　　
　　　　　　　　　　　　　　第５楽章　Menuetto:Allegretto　三部形式
　　　　　　　　　　　　　　第６楽章　Allegro　ロンド風ソナタ形式